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最高裁判所第二小法廷 昭和61年(行ツ)97号 判決

静岡県浜松市有玉南町一八六七番地

株式会社毎日観光訴訟承継人

上告人

毎日企業株式会社

右代表者代表取締役

朴在春

右訴訟代理人弁護士

鈴木俊二

静岡県浜松市元目町一二〇番地の一

被上告人

浜松税務署長

福井達郎

右指定代理人

植田和男

右当事者間の東京高等裁判所昭和六〇年(行コ)第二号法人税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和六一年三月二五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鈴木俊二の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤島昭 裁判官 牧圭次 裁判官 香川保一 裁判官 林藤之輔)

(昭和六一年(行ツ)第九七号 上告人 毎日企業株式会社)

上告代理人鈴木俊二の上告理由

第一 原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。

一 本件持分の譲渡とその原因について、上告人は、昭和四九年三月頃、本件持分の権利者片桐ら三名が朴に譲渡し、朴は直に上告人に代金金七一〇二万六九七六円で転売し同人がその所有権を取得したところ、右代金のうち金五四九五万五一五一円は当然上告人から朴に支払われ、残代金金一六〇七万一八二五円は上告人から便宜、直接即ち朴を経由することなく本件持分の旧所有者(売主)に支払われたと主張する。これに対し、原判決は、「昭和四九年八月一日片桐ら三名が負担していた原告の金融業者等に対する債務の保証を免除してもらう代わりに、同人らが本件土地の旧所有者に対して負担していた本件持分の未払代金債務金一六〇七万一八二五円を原告が引受けることにして原告に対し本件持分を贈与した」と認定し、上告人の右主張を排斥している。

二 即ち、原判決は、上告人は本件持分を片桐ら三名から贈与によつて取得したとし、この贈与の条件は「片桐ら三名が負担していた原告の金融業者等に対する債務の保証を免除してもらうこと」であつたとする。しかし、該条件事実は当事者間で約束されたことはないし(当然第一審を通じて証明されたこともない)、そもそもかような約束は絶対にありえないことである。けだし、上告人は、「昭和四八年一二月一九日不渡手形を出して事実上倒産し」負債は約金三億三〇〇〇万円、資産は上告人全財産(勿論本件持分も事実上含む)を最高値で処分しても約金二億円で実質赤字は約金一億三〇〇〇万円に達し、この事情は片桐ら三名において知悉していた。したがつて、片桐らにおいて、上告人に「原告の金融業者等に対する債務の保証」即ち、伊藤忠エーエムエフボーリング株式会社に対する金八三二〇万円、株式会社清水銀行に対する約金四〇〇〇万円、静岡商銀信用組合に対する金一一五二万円、また日産建設株式会社に対する金一億五四七四万三〇一五円の物上保証を「免除してもらうこと」を期待し条件とすることはありえないことであるからである。

三 したがつて、片桐ら三名が、「債務の保証を免除してもらうこと」を期待したのは上告人にではなく朴個人であつたという帰結になる。この帰結を排斥するについて、原判決は、「前顕控訴人本人尋問の結果(原・当審)中には、右主張に符合する供述部分があるけれども、同供述部分は、これを裏付けるべき資料がない・・・」とする。しかし、甲第一九号証ないし甲第三一号証は確かに原審に提出されている筈であるところ、この資料をもつて供述部分を裏付けるべき資料でないとすると訴訟上の証明は全く不可能となつてしまう。けだし、甲第一九号証は、右伊藤忠と朴(日本名吉崎次三郎と記されている)との債務処理メモであり、甲第二〇号証ないし甲第二六号証は、右メモに基く朴(吉崎)の右伊藤忠に対する支払領収証であり、甲第二七号証ないし甲第三一号証は、宋永鐘の保証債務を免脱さしめた旨の根抵当権抹消登記が登載されている登記簿謄本であり、いずれも、「債務の保証を免除してもらうこと」を期待されまた約束した朴の履行行為の証拠であるからである。

四 かように、原判決には明らかな事実の誤認があり、この誤認は、原判決すべてに影響を及ぼしているが、とりわけ上告人の除斥期間の主張(「本件更正処分は昭和五四年六月三〇日になされているが、この処分でなしうるのは昭和四九年五月一日以降の行為についてである。しかるに、本件の持分譲渡は昭和四九年三月頃遅くとも四月末までにはなされているので国税通則法第七〇条二項に牴触した無効な処分である。」)を排斥した点においてその影響が明らかである。原判決が、本件持分譲渡を昭和四九年三月ないし四月頃と正当に認定していれば、本件更正処分は除斥期間の規定に違及した無効な処分となるからである。

第二 原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。

一 片桐ら三名および朴在春らが、本件土地を旧地主から買受けたのは昭和四六年七月二七日であるが、間もなく、本件土地上に上告人所有の堅固建物(鉄骨鉄筋コンクリート造)が建設され、本件土地は該建物の敷地として使用されていた。

二 かかる事実関係のもと、原判決は、上告人において本件土地に対し使用貸借契約に基づく使用収益権を有するとの判断を示している。

1 しかしながら、上告人と片桐ら三名との間で使用貸借契約を締結したことは全くない。したがつて、原判決が右契約を認めていることは事実誤認でもあり、また理由不備の違法な判決というべきである。

2 ところで、片桐ら三名は利潤を目的として旧地主から本件持分を取得し、また上告人も営利を目的とする法人であるためこの両者間において本件土地の使用について無償貸与などありうる筈はない。たまたま、本件において、「権利金及び地代等の授受」がなかつたのは、上告人において支払能力を欠いていたため顕在化しなかつたまでである。

かような状況の場合、課税庁の見解は、かりに使用貸借契約が存在したとしても、それは賃貸借を使用貸借に擬装して賃料を免除するものであるとして借地権利金担当の認定課税(貸主については権利金の認定、借主については受贈益の認定)をしている(法人税法第二二条)。なお、昭和五五年一二月の法人税基本通達一三-一-七は、かような場合にも使用貸借がないとはいえないことから、当事者が税務署長に対し将来借地を無償で返還する旨届出ることを条件にこの権利金の認定を行わないことに改めたが、これを裏返せば、現在でも税務署長に右届出をしないかぎり従前と同様に借地権利金相当の認定課税を受けることになる。

原判決は、貸借関係当事者が利潤獲得を動機とし旦経済人であつても、「地上権や賃借権の設定がなく権利金及び地代等の授受もなされていない」場合には使用貸借契約であること、即ち使用貸借契約を否定する右取扱いに反する判断を示している。これは、ひいては右課税庁の取扱いを無効ないしは違法であるとの見解を示していることにほかならないと考える。

しかして、原判決が、片桐ら三名と上告人間における本件土地貸借について使用貸借契約であるとした場合、本件持分の更地価額から使用借権の価額を控除したことは相続税等の取扱いと異つた違法なものというべきである。けだし、相続税等の取扱いは、使用貸借権の目的となつている土地については、その評価を更地と同様の評価とし、また、使用借権は評価しないものとされているからであり、本件の場合、相続税等と異つた取扱いをすべきであるとの何らの理由も示していないからである。

三 要するに、原判決には、法人税法第二二条、法人税基本通達一三-一-七に基づく取扱いに反して使用貸借を認定したこと、および、使用貸借における更地の評価について法人税法が適用されているところ相続税法等他税法と全く異つた見解の上更地の評価の判断をしていること、に法令の違背がある。

以上いずれの点よりするも原判決は違法であり、破棄さるべきである。

以上

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